FORWARD塾長、松尾です。
またマニアックな記事を書きます。マニアックな話やクダラナイ話が続いていて申し訳ない……
昨日、調べものをしていて、メルセンヌ数という一群の整数に行き当たりました。メルセンヌ数とは何か。2を何乗かして、1をひいた数です。つまり2の1乗から1をひいた1や、2の3乗から1をひいた7が相当します。
メルセンヌ数という名前は一般的に認知されるものではないと思いますが、その意味する数字は、中学受験などでもお馴染みのものです。たとえば一辺1センチの正方形のタイルを用意し、つぎにそのタイル二枚をくっつけた1センチx2センチのタイル、つぎにその2倍の2センチx2センチ……と追加していったとき、何回目の追加で面積は何平方センチメートルになるか。この答えはメルセンヌ数列になります。(適切に配置すれば、縦横が2倍2倍に増える長方形や正方形の中に1マスだけ間隙がある図形になるため)また、ハノイの塔と呼ばれる有名なパズルの答えはメルセンヌ数列になります。
それで、そのメルセンヌ数のうち、特に「2を何乗かして、1をひいた数」の「何乗」の部分が素数乗になっている数は、計算して出来る数も素数である場合が多いと指摘されているそうです。この数の由来となった17世紀フランスの神学者・数学者マラン・メルセンヌ自身が上記に該当するいくつかのメルセンヌ数を提示しているそうです。ただ、そこには漏れや、実は素数でない数も含まれていたそうで。後にいくつか訂正を受けている。
それで、僕が喜んだのは、そんな間違いの指摘のひとつについて、ウィキペディアにあった記述です。マラン・メルセンヌが素数だと主張した、2の67乗から1をひいた数が、フランク・ネルソン・コールという学者によって素数ではないと示された。ちょっと潤色されているかもしれませんが、1903年10月、アメリカ数学会での事です。示された演題は「大きな数の素因数分解」
コール博士は無言のまま、まず2を67乗し、1をひいた。それから、おもむろに黒板に、193707721と761838257287のかけ算を始めた。これ、概算すると21桁に達して1京を超え、筆算すると108回のかけ算九九を唱えて少なくとも9段のかけ算結果を書きだし、足し算をしないといけません。コール博士が沈黙のうちに計算を終え、沈黙のまま段を降りて席に戻り、少し間があり、会場から拍手がわき起こった。答えとして示された21桁の数は、最初に行われた2を67乗し、1をひいた数、二百数十年前にマラン・メルセンヌが素数だと主張した数、そのものでありました。
何が楽しいって、まずそのかけ算。2の67乗!かければかけるほど桁数が増えていきます。21桁に達します。桁数が多すぎます。その次も9桁と12桁のかけ算! また21桁! 気が狂いそうです。それをやった。アメリカ中の数学研究者達が見つめる中で。気が遠くなりそうです。でもやり遂げた。計算ミスもせずに、ピタリと偽メルセンヌ素数がかち割られた。マラン・メルセンヌの誤りが暴露した。カッコいいじゃぁないですか。まるで射的選手がライフル銃で、見えないくらい遠くのリンゴを正確に撃ち抜いたようだ。
そして発表の間、余計な事は何一つ言わなかった。挨拶もしなかった。(一言も口をきかないというのは曖昧な描写で、じつは挨拶くらいしたかも知れませんが……)それでも、賞賛すべき業績が示された事が分かるんですね。以心伝心です。気持ちがいい話ではありませんか。
また、謎の計算を始めたコール博士を見守り、計算が終わっても見守り、博士が席についても黒板を見つめ、理解し、拍手した聴衆。中高生は突然先生が21桁のかけ算を始めたりしたら、途中で野次を飛ばすか、内職を始めるでしょ。そうじゃないんですね。この日ニューヨークに集まった数学研究者達は、目の前で始まった謎の計算に、何かの予感を感じて、何が示されるのか見極めようとする、そういう態度を持っていたのです。それが素晴らしいと思います。未知なるものが目の前に示されようとするのを感じ取り、その儀式を慎みをもって、興味津々で、見守る姿勢。すばらしい。
数学の楽しみ、喜びとは、たとえばこんなものかなと思います。いや、これが蘊奥であるとは言えないかも知れませんが。
2012年11月10日
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