2019年05月18日

「知りたいことだけ知れれば良い」という発想の貧困

NHKのニュースサイトが、若者のメディア意識を入り口に、我々がどのように情報と接しているか、それが社会の分断に繋がっていると指摘されているが、何らかの解決への希望は無いのか、論じています。
(NHKのニュースサイトは短期間でURLが無効になってしまうので、元記事は見られないかもしれません)


“知りたい情報”だけで十分ですか?
WEB特集 2019年5月17日 12時50分
NHK NEWS WEB

記事に引用された若者の言葉に、私は記事の論旨とは違う違和感を感じました。
また、私の仕事に引き寄せて言えば、「そんなことでは学びも深まらなくて当然だし、折角学んだことも生きる中で活かすことが出来ない」と思ってしまいます。情報への意識のあり方は、根本的な学びの姿勢と深く結びついています。

「テレビのニュースって、都合のいいように編集されている感じがして、信じられないです」
「今起こっていることを知るにはTwitterのタイムラインを見ればいい」


確かに、いかなるメディアも、そのメディアそのものの政治的立場や、メディアに資金を提供している企業、政治団体の意向、法制度や許認可権・取材権限の与奪を通じて圧力をかける政権の影響を受けていると指摘されています。限られた時間の中で、人間が何を伝えるか決めている以上、いかなる偏向もなく世界の真実を伝えるメディアなど存在しえない。しかし、それはテレビに限ったことでは無いし、それを承知の上で様々なメディアから情報を収集し、偏向した情報どうしを突き合わせることで、おぼろげにせよ実像の片鱗が見えてくるものでは無いでしょうか。「信じられない」が結論になって、だからTwitterでいい、というのは、私には恐ろしい暴論に思われます。

若者たちのインタビューを踏まえて、半年後に行った世論調査の結果については、次のように紹介しています。

「自分が知りたいことだけ知っておけばいい」という感覚、全体では31%ですが、男女20代では44〜45%と、半数に迫りました。

「インターネットを情報ツールの中心に据えると、自分の知りたいことしか知ろうとしなくなる」とは、はるか以前から言われていました。そういう姿勢に対して警鐘は鳴らされていました。しかし、けっきょく若い層で、その危惧された通りの意識が広まっていることを示唆する結果です。

NHKの当該記事は「若者たちが、SNSで触れる、自分と似通った感覚や意見を反映した情報ばかりにどっぷり浸かって、それを信じきってしまうかといえば、そうではない。SNSに対しても『半信半疑』という冷めたスタンスを取る様子も見受けられる」と現代的なメディアリテラシー向上の可能性を指摘し、前向きな見方で話を締めくくろうとします。しかし、私には、まさにネットの弊害が如実に現れつつあるという調査結果ではないかと感じられます。

自分に都合のいい情報ばかり見てしまう、というのは、今に始まった話ではありません。第二次世界大戦の日本軍の惨敗の一因としても、同じことが指摘されています。しかし、それが多少なりと改善されていって欲しいと願う身としては、改善どころか悪化傾向とは、残念でなりません。


より多くの情報を貪欲に収集し、その知識を「誰が、どのような背景の元で編集した情報か」も含めて分析し、同じような事柄についての複数の観点を重ね合わせて事物の実像に肉薄し、そうして積み重ねた知見の中から、曲がりなりにも「世界観」と呼びうる見識を打ち立てることで、個々の情報は豊かな意味を帯びる。そうなってこそ知的活動は本物になる。それが正しい勉強だと思うのですが。

古典なんか勉強しなくて良いんじゃないかとか、三角比なんて何の役にも立たないとか、そんなレベルの低い話をしているから、徒らに世を惑わして問題を何一つ解決できないのだろうと思わずにおれません。若者に「自分が知りたいことだけ知っておけばいい」という感覚が広まっていると指摘されていましたが、情けない中高年もなかなか多い昨今です。
posted by FORWARD-ac at 20:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 「学び」について